甲斐承太郎正直に言うとさ……
「飲食店を始めて失敗したら人生終わり」って、
どこかで本気で思ってる。
借金、廃業、再就職できない未来……
考え出すと、怖くて夜に眠れなくなるんだ。



その感覚、まったくおかしくありません。
むしろ、そう思える人ほど真剣です。
ただ一つ、最初に整理しておきたいことがあります。
飲食店開業における失敗と、人生における失敗は、同じではありません。
- どんな状態を「飲食店開業の失敗」と呼ぶのか
- どこで「撤退」と判断すべきか
- 失敗を人生に持ち込まないための考え方



飲食店開業における失敗とは、店を閉めること(廃業)ではありません。
本当の失敗は、
・状況を把握できなくなる
・判断を先送りし続ける
・損失が広がっているのに止まれない
この状態に入ることです。


第1章|多くの人が勘違いしている「飲食店の失敗」





「飲食店で失敗した」って言葉、売上が出なかったとか、店を閉めたとか、そういう意味で使われてる気がするんだけど……。



ええ。そこが最初の勘違いです。
飲食店の“失敗”は、結果ではなく状態で考える必要があります。
まず整理しましょう。
一般に「失敗」と言われがちなものは、主にこの3つです。
飲食店開業でよく言われる「失敗」3パターン
| よくある認識 | 実際の評価 |
| 1.売上が出なかった | 一時的な結果にすぎない |
| 2.赤字が続いた | 調整・改善の余地がある |
| 3.廃業した | 経営判断の一つ |



結論を言います。
この3つは、それ自体では失敗ではありません。



え、でも全部ヤバそうだけど……。



たしかに、放置すれば危険です。
ただし問題なのは“起きたこと”ではなく、
それに対して判断できているかどうかなんです。
本当の「失敗」とは何か



飲食店開業における本当の失敗は、
次の状態に入ることです。
これは結果ではありません。
判断不能な状態です。
- 売上や資金の状況が把握できていない
- 赤字の理由を説明できない
- 「もう少し様子を見る」を繰り返している
- やめる判断が、怖さや意地だけで先延ばしになる



多くの人が、ここに気づかないまま進んでしまいます。
「まだ頑張れる」「そのうち良くなる」
この言葉自体が悪いわけではありません。
ただし、
根拠のない我慢に変わった瞬間、
経営は静かに壊れ始めます。
なぜ判断が遅れるのか



判断が遅れる理由は、ほぼ共通しています。
その結果、数字や事実ではなく、感情が判断を支配します。
- 店を閉める=失敗だと思い込んでいる
- 周囲にどう見られるかが怖い
- 自分の選択を否定したくない



たしかに……「廃業=負け」って思ってると、判断そのものができなくなるな。



その通りです。
だから我々は廃業を「終わり」ではなく経営判断の一つとして扱っています。



整理します。
判断できない状態に入ること
これが、飲食店開業における失敗です。
- 売上が落ちた=失敗?
- 赤字が出た=失敗?
- 廃業した=失敗?
第2章|飲食店が「失敗状態」に入る典型パターン





第1章で「判断できなくなるのが失敗」って話は分かったけど、
実際、どんな流れでそうなっちゃうんだろう?



いい質問です。
失敗状態に入る店には、かなりはっきりした共通パターンがあります。
順番に整理しましょう。
飲食店が失敗状態に入る3つの構造
| 構造 | 起きていること | 危険な兆候 |
| 資金が見えなくなる | 現金残高・支払い予定を把握していない | 「今月はいけそう」という感覚判断 |
|---|---|---|
| 数字を見なくなる | 原価率・固定費を説明できない | 売上だけで一喜一憂する |
| 判断を感情に任せる | やめ時を決めていない | 「ここでやめたら負け」という思考 |



この3つが同時に進行すると、
経営は静かに制御不能になります。
構造①|資金が見えなくなる



最初に起きるのは、ほぼ例外なくこれです。
この状態では、黒字でも突然止まります。
口座残高は見ている
でも「来月・再来月の支払い」が見えていない



売上が出てれば大丈夫、じゃないんだね。



ええ。資金が見えないと、判断は常に遅れます。
構造②|数字を見なくなる



次に起きるのが、数字を“見るのをやめる”ことです。
これは怠慢ではありません。
余裕がなくなったサインです。
- 原価率が説明できない
- 家賃・人件費の割合を把握していない
- 「忙しいから後で」と放置する



忙しいと、考えるの後回しにしがちだよな……。



その瞬間から、経営は感覚勝負になります。
感覚で続けられる経営は、長くは持ちません。
構造③|判断を感情に任せる



最後に残るのが、感情です。
これ自体は、人間として自然です。
問題は、判断基準が感情だけになること。
- 「ここまでやったのに」
- 「もう少し頑張れば」
- 「周りにどう思われるか」



やめる理由より、続ける理由を探しちゃう感じか。



そうです。
続けるか、やめるか。
どちらも経営判断なのに、片方だけが「敗北」に見えてしまう。
第3章|「失敗」と判断すべきラインはどこか





正直さ……
どこまで行ったら「もうダメだ」って判断すればいいのか、
それがいちばん分からない。



そこが分からないまま進むと、判断は必ず遅れます。
だから経営では、感情とは別に“線”を引くんです。



最初に言います。
撤退ラインは、
「やめる理由」を探すためのものではありません。
壊さないための保険です。



保険……?



はい。
事故が起きたあとに考えるのではなく、
起きる前から用意しておくものです。
飲食店開業における撤退ラインは3つだけ見ればいい



撤退ラインは、
細かく作る必要はありません。
最低限、次の3つだけで十分です。
- 手元資金が
あと何か月持つか説明できるか - 3か月を切った時点で、
次の選択肢を具体的に検討しているか



「まだ回っている」では不十分です。
数字で言えない時点で、判断は遅れています。
- 売上が下がった理由を説明できるか
- 客数・客単価・原価率を分解して見ているか
- 改善策と期限をセットで考えているか



売上が下がること自体は、珍しくありません。
問題は、理由と期限がないまま続けることです。
- 睡眠が取れているか
- 判断を一人で抱え込んでいないか
- 「怖さ」だけで続けていないか



ここは軽視されがちですが、非常に重要です。
これは甘えではありません。
経営者の状態は、経営の一部です。



数字だけじゃなくて、自分の状態も判断材料に入れていいんだ。



当然です。
壊れた経営者が、
冷静な判断を下せるはずがありません。
撤退ラインを決めている人は、失敗しにくい



整理します。
撤退ラインは、経営を守る技術です。
撤退ラインがある
判断が早くなる→ 損失が限定される
撤退ラインがない
感情で粘る→ 損失が拡大する



やめるって決めるの、怖いことだと思ってたけど……



逆です。
やめる基準を決めていない方が、ずっと怖い。



撤退は、逃げではありません。
判断です。
判断できる人は、飲食店開業で「失敗」しません。
第4章|飲食店開業に失敗したとき、まずやるべきこと





もし……
「これはもう厳しいかも」って思ったら、
最初に何をすればいいんだろう。



まず安心してください。
何かを急いで決断する必要はありません。
この段階で一番やってはいけないのは、「一気に全部解決しようとすること」です。
最初にやるべきことは「動く」ことではない



結論から言います。
最初にやるべきことは、現状を並べることです。
判断は、そのあとです。



並べる……?



はい。
頭の中にある不安を、一度すべて外に出す作業です。
最低限、次の3つだけを書き出してください。
完璧である必要はありません。
7割で十分です。
- 手元資金はいくらあるか
- 毎月、必ず出ていくお金はいくらか
- 今後、支払い予定の契約は何があるか



数字を全部そろえないとダメかと思ってた。



それがパニックの原因です。
まずは「全体像」を見ること。
精度は、あとから上げればいい。
- どんな契約があるか
- いつまでに動けばいいか



この段階で、解約・返却・届出を一気にやろうとする人が多い。
それは逆効果です。
把握するだけで止めてください。



「今すぐ何かしないと」って焦るよな……。



ええ。
でも焦りは、判断を雑にします。
- 勢いで全てを処分しない
- 感情で関係を断たない
- 一人で抱え込まない



ここが一番重要です。
今やるべきことは、未来の選択肢を残すこと。



何か決める前に、決めない勇気も必要なんだな。



その通りです。
経営が苦しい時ほど、
「何をしないか」が重要になります。
- すぐに決断しない
- まず現状を並べる
- 契約は把握だけ
- 選択肢を消さない



これは撤退準備ではありません。
冷静さを取り戻すための作業です。
- 値引きで無理に売上を作らない
- SNS投稿で気持ちを誤魔化さない
- 感情で設備や内装を処分しない
- 取引先と勢いで関係を切らない
- 一人で全部決めようとしない
第5章|飲食店開業の失敗は「次に進むための経験」になる





正直……
一度失敗したら、もう次はない気がしてた。



多くの人が、そう感じます。
でも現実は少し違います。
一度失敗した人の方が、次は失敗しにくい



結論を言います。
飲食店開業で一度失敗した人は、
次の挑戦で同じ失敗をしにくい。
理由は、才能や根性ではありません。
構造を知っているからです。



構造?



はい。
成功している人より、一度失敗した人の方が「どこで壊れるか」を知っています。
失敗経験で残る3つの力



失敗を経験すると、
次の3つが確実に残ります。
- 売上だけでは安心できない
- 現金残高と固定費を見る癖がつく
- 「忙しい=儲かっている」とは限らないと知る



これは、
机上の勉強では身につきません。
- 小さく始める
- 縛りの強い契約を避ける
- 逃げ道を残す



一度痛い目を見た人は、家賃・人件費・契約に慎重になります。
これは、経営者としての成熟です。
- どこで止めるか
- どこまで粘らないか
を、感情ではなく判断で決められる。



最大の違いは、ここです。
撤退ラインを知っている人は、失敗を拡大させません。



一度失敗した人の方が、
冷静ってことか。



ええ。
派手さはなくなりますが、生存率は上がります。
失敗は「減点」ではなく「条件」
- 失敗経験がある
→ 判断が早い
→ 損失が小さい
→ 次の選択肢が残る



これは減点ではありません。
条件が一つ増えただけです。



そう考えると……失敗そのものより、
失敗をどう扱うか、なんだな。



その通りです。
経営に必要なのは、成功談よりも判断経験です。
飲食店開業の失敗は、終わりではありません。
次に進むための材料です。
第6章|「ただ店を閉める」だけでは終わらない





……なんとなく分かってきた。
撤退ラインを決めて、ダメなら潔くやめる。
で、やめる時は大家さんに「来月出ます」って言って、鍵を返せばいいんだよね?
あとは廃業届を役所に出して終わり、みたいな。



……その認識は危険です。
その流れで動くと、店を閉めた“あと”に大きな請求が来ます。



脅しではありません。
飲食店は「開ける時」よりも、
「閉める時」の方が知識と段取りを要求される場面が多いんです。
落とし穴①|「解約予告期間」という時限爆弾



まず、賃貸借契約書を確認してください。
そこに書かれている「解約予告期間」は何ヶ月ですか。
多くの場合、3ヶ月前〜6ヶ月前と定められています。



……6ヶ月前って書いてある。



つまり、「今日で店を閉める」と決めても、
そこから半年分の家賃は支払う義務があるということです。
売上がゼロでも、営業していなくても、関係ありません。



家賃20万円なら、半年で120万円。
この金額を確保できていない状態で撤退判断をすると、
その時点で資金が詰みます。



資金が尽きてから撤退を決めると、この家賃を払えず、夜逃げ同然になるケースもあります。
だからこそ、「まだ余力があるうちに判断する」必要があるんです。
落とし穴②|「原状回復」という高額請求



次に確認すべきは「原状回復義務」です。
入居後に内装工事をしている場合、退去時は原則としてスケルトン(コンクリートむき出し)に戻すことが求められます。



カウンターも厨房も、全部壊すってこと?



そうです。
そしてこの解体工事費が高額になります。
目安としては坪あたり5万〜10万円。
15坪の店なら、100万円を超えることも珍しくありません。



・解約予告期間の家賃
・原状回復工事費
この2つだけで、
閉店コストが200万〜300万円になるケースもあります。
落とし穴③|リース品・借入金の「法的責任」



最後に、最も見落とされやすい点です。
厨房機器やレジをリース契約で使っていませんか。



ある。
月々払ってる冷蔵庫があるけど……
閉めるなら売って現金にした方がいいのかな。



それはできません。
リース品の所有権は、使用者ではなくリース会社にあります。
勝手に売却・処分すると、
契約違反や法的問題に発展する可能性があります。
必ず、確認しましょう。
- リース会社へ連絡
- 契約内容に従った解約・返却
が必要です。



借入金も同じです。
金融機関に連絡せずに事業を止めると、一括返済を求められることがあります。



しかし、事前に状況を説明し、返済計画を整理した上で相談すれば、条件変更が検討されるケースもあります。
・「黙ってやめる」と
・「状況を整理して話す」では、
結果が大きく変わります。
この章のまとめ|廃業で本当に注意すべきこと



飲食店の廃業には、
表に見えにくいコストと責任があります。
- 解約予告期間分の家賃
- 原状回復(解体)工事費
- リース品の返却義務
- 借入金の返済・調整



……正直、甘く見てた。
気持ちが折れてる時に、これを全部一人でやるのはきついな。



だからこそ、廃業は「感情が限界になる前」に
準備として考えておく必要があります。



廃業は失敗ではありません。
ただし、手順を間違えると傷が深くなる。
それだけは、覚えておいてください。



