稼げるのに、なぜ潰れるのか?ナイトビジネスが扱う“お金の正体”

山本綺羅星

事業計画は完成。融資も通った。
内装工事ももうすぐ終わって、お店もカタチになってきた。
SNSでの宣伝もいい感じ。ドリンクメニューも完成。
あとは……開店を待つだけ、なんだけど……
……やっぱり、怖いの。
わたし、失敗したくない。絶対に潰れない方法って、ないの?

アカガネ所長

誰だって怖いのは一緒です。
開業ってのは、“希望と不安の真ん中”に立つことですから
これまで我々が見てきた、“潰れる店と、続く店の違い”
今日はそれを全部お伝えしましょう。

この記事でわかること
  • ナイトビジネスは“儲かる”けど、“崩れやすい”構造である理由
  • ナイトビジネスが本当に売っているもの
  • “稼ぐ”だけでは続かない――潰れないための「お金との向き合い方」
シマナガ

絶対に潰れない方法があります。
それは“お金を失くさないこと”です。
売上じゃありません。利益でもありません。
手元にあるお金がゼロになった瞬間、店は終わりです。

この記事を書いた人

こやけ企画代表:たがわひでゆき

たがわ ひでゆき

所有資格:行政書士・簿記2級
趣味:プロレス

1983年生まれ、旭川出身。
飲食店開業支援を手掛ける『こやけ企画』の代表。
長年運送業に従事しながら、キャリアチェンジを目指して3度目の挑戦で行政書士試験に合格。

脱サラを目指す方々に向けて、楽しくわかりやすく飲食店開業ノウハウを発信するブログ『脱サラ物語』を運営中。
将来、行政書士として独立開業することを目標に、日々準備を進めています。

私生活はサラリーマンとご当地レスラー「イソロク」として2足のわらじで活動中

目次

なぜ“お金が消える”のか?――タイミングのズレにご用心

アカガネ所長

お店が潰れる一番の理由は、“お金が足りなくなる”ことです。
もっと言えば――“お金が入るタイミング”と“出ていくタイミング”がズレることが原因です

山本綺羅星

え?でもちゃんと売上があるなら、別に困らないんじゃないの?

アカガネ所長

そこが落とし穴です。たとえば――
今月の売上があっても、支払いは先月分の仕入れや人件費だったりする。
逆に、税金や借金の返済は前期の“調子が良かった頃の数字”で請求される場合もあります。

たとえば、こんなズレ

タイミングお金が動くことよくある“ズレ”の例
お客から現金をもらう(売上)→ カード決済なら入金は数週間後
月末家賃や人件費を払う→ 今月の売上では足りないことも
翌月キャストへの歩合支払い→ 今のうちに現金を確保しておかないとアウト
翌年税金(法人税・消費税)を払う→ 過去の好調期の分を請求される
いつか突然設備トラブル、キャスト退職→ 急な出費に対応できないと資金ショート
シマナガ

数字上は黒字でも、手元の現金が尽きたら店は止まります。
これが、よくある“黒字倒産”です

山本綺羅星

こわ……。つまり、“今あるお金”だけを信じてると危ないってことね

シマナガ

そうです。
だから大事なのは、売上でも利益でもなく、“現金の流れ”=キャッシュフローを読むこと”が重要になります。

ナイトビジネス特有の“ズレ”とその危険性

山本綺羅星

でも、最初にナイトビジネスは利益率が高いから儲かりやすいって言ってたじゃない。
売上予測でもドリンクがメインだから、食材費はそんなにかからないし。客単価も高いはずよ。

アカガネ所長

そこが“最初のワナ”です
ナイトビジネスは確かに、売れたときの利益は大きい。
でもそのぶん、調子が良いときと悪いときの差がとても激しいんです。
ナイトビジネスはこんな特徴があります

ナイトビジネスの収益構造

シマナガ

ナイトビジネスも法律上では同じ飲食店営業許可の中括りですが一般的な飲食店とは大きく異なります。

一般飲食店ナイトビジネス
商品は「食事」「ドリンク」商品は「キャスト」「会話」「空間」
客単価は1,000~3,000円程度客単価は5,000~20,000円以上も
売上=席数×回転率×客単価売上=キャスト×指名数×客単価
スタッフの入替があっても比較的安定主力キャストが辞めると売上が激減
売上の“上下”が激しすぎる業態
  • 天気が悪いとお客が減る
  • キャストが休むと売上が落ちる
  • 月末イベントで爆発的に売れても、平日はガラガラ
  • キャストが突然辞めたら売上が激減する

たまたま今月は好調でも、翌月にそのまま続く保証はどこにもない。

“人”と“空間”が商品になる
  • ナイトビジネスでは、商品は「酒」ではなく「キャスト」や「空間の雰囲気」そのもの
  • キャストが抜けたら売上も一緒に抜ける
  • 雰囲気を守るために照明・内装・制服・音響などの設備維持費がかかる

売れた分だけ儲かるように見えて、支出は変わらず固定で降ってくる

シマナガ

つまり、ナイトビジネスは“利益率が高い”けれど、中身が“人間依存”すぎて安定しないのです
売上が良かった月=安全ではありません。
売れたあとに支払いだけが残る――それがこの業態の怖さです。

山本綺羅星

利益が出たときに、調子に乗って内装を豪華にしたり、
キャストを増やしたら……後で払えなくなるかも

シマナガ

はい。
ナイトビジネスは、絶好調のときほど、来月を警戒するべきです。
一日に何百万というお金が入ってくることもあります。
大金を見たとき、人間は気が大きくなってお金に対する警戒心がどんどん薄れていきます。

思いがけない出費が“すべてを崩す”

山本綺羅星

利益が出てたのに、手元にお金がない……?
そんなこと、ほんとにあるの……?

アカガネ所長

むしろ、ナイトビジネスではよくある話です。
順調だった売上が、ほんのひとつの出費で全部吹き飛ぶこともあるのです。

よくある「突然の出費」
  • キャストの急な退職 → 売上ダウン&求人広告費が発生
  • トラブル客の対応 → 警備・弁護士・示談金など臨時出費
  • 照明・音響・空調など店舗設備の故障 → 数十万円の修理費
  • 店舗の更新料・消防設備点検・消耗品の大量発注

そしてお金が足りなくなったら…

シマナガ

今月はちょっとだけ資金が足りない。
来月イベントもあるし、すぐ返せばいいか……
そんな気持ちで、
安易に手を出してしまうのが“消費者金融”の借金です。

消費者金融という“甘い罠”

山本綺羅星

消費者金融?
そんなところからお金を借りる理由、ないでしょ
テレビでもCMやってるし、“高い金利で首が回らなくなる”って、素人でも知ってるわよ

シマナガ

それでも、借りるんです。現場では

アカガネ所長

レジの中が足りなかった、スタッフの給料が迫っていた、設備修理の見積もりが思ったより高かった。
来月の週末イベントで取り返せばいい。
その一瞬の判断で、借金の時計が動き出します。

比較消費者金融(高利貸し)銀行・信用金庫
審査なし・甘い厳しい・時間がかかる
必要書類ほぼ不要事業計画・資産証明など
入金までの時間即日1週間〜1ヶ月程度
金利高い(年利15〜20%超も)低め(年利2〜5%)
返済方式一括 or 毎月均等基本は毎月返済
シマナガ

電話一本・即日入金――
一時的な借金だし助かるように見えてきます。
でも、その“助け舟”が、店を沈める重りになることもあります。

“ズレ”があなたを追い詰める
  • イベントが雨で客足ゼロ
  • 指名キャストが突然辞めた
  • 税金の通知が思ったより早く来た
  • 借金の返済が今月分”じゃなく“前月分+延滞利息”になっていた
アカガネ所長

借りたお金は、翌月にはもう「返すだけのカネ」に変わっています。
そして「今月」の出費はまた新たに現れる。

地獄のループ:「借りて返す」だけの商売

シマナガ

気づけば、“営業”ではない。 “返済のための作業”をしてるだけ”のループに陥ります。

アカガネ所長

数字は回ってる。帳簿も黒字だ。
でも、手元にお金が残っていない
それを“経営破綻”と言います。

消費者金融の高利貸しが問題になってから20年以上経ちましたが
消費者金融は今もテレビCMが流れています。
今もどこかで消費者金融を利用している人がいるのです。

じゃあ、どうすればよかったの?――“見える化”がすべて

山本綺羅星

……売上があるのに、潰れるって……やっぱり怖い
わたし、絶対そうなりたくない。
じゃあ、どうすればよかったの?

アカガネ所長

答えは簡単です。
“今のお金”と“これから出ていくお金”を、ちゃんと見えるようにしておくこと
「つまり――キャッシュフローを見える化する
それが経営の基本です。

キャッシュフローってなに?

シマナガ

キャッシュフローとは、「お金の流れ」のことです。

キャッシュフローとは
  • いつ、いくらお金が入ってくるのか?
  • いつ、いくらお金が出ていくのか?
  • 今月の残高で、来月の支払いはまかなえるか?
アカガネ所長

それを“毎日”把握しておくだけで、資金ショートの大半は防げます

特別なスキルや資格はいらない

シマナガ

キャッシュフロー管理って言うと難しく聞こえるけど、
要するに“お小遣い帳”です。
毎日、財布にいくら入ってて、今週何を払う予定か。
それを表にするだけです。

超シンプル資金繰り表(例)

日付入ってくるお金(売上など)出ていくお金(人件費・家賃など)手元に残るお金
4/150,000円(現金売上)20,000円(仕入れ)30,000円
4/270,000円(カード売上)なし100,000円

※最初はノートでもOK。できればExcelや会計ソフトを活用するとさらに便利。

お金を守る“最強のスキル”――それが複式簿記

シマナガ

ここまで来たら、もう一歩ステップアップしましょう。
“複式簿記”が使えるようになると、経営者としての視界が一気に広がります

山本綺羅星

ふく……しき……?
なんか、経理の人とか税理士が使うイメージあるんだけど……

アカガネ所長

それは“正しいけど、もったいない誤解”です。
複式簿記は、“お金の地図”みたいなものです。
“どこから入って、どこに出て、どこに溜まってるか”が全部わかるようになります。

複式簿記ができると何が変わる?
  • お金の出入りを「なんとなく」じゃなく、仕組みとして理解できる
  • 税理士や銀行に「ちゃんとしてる経営者」として信用される
  • 決算書を自分で読める・作れる → 融資・補助金にも有利
  • 使っていいお金と、使っちゃダメなお金の区別がつく
シマナガ

現金の残高を見るだけでは、“今あるお金”しかわかりません
でも、複式簿記を使えば、“本来使えるお金”がどれかもわかるのです。
それはまるで、夜の街に灯りがともるようなものです。

山本綺羅星

……なんか、かっこいいじゃん。
経営って、数字を使って未来を守る仕事だったんだ

複式簿記を始めるには?

経営者なら知っておくべき節税術!簿記3級から学ぶ経理の基礎知識

【おすすめツール】仕訳が自動でできる会計ソフト一覧(準備中)

ナイトビジネスが取り扱う“商品=人の欲求と感情”

アカガネ所長

次は、ナイトビジネスが本当に“売っているもの”について考えてみましょう。
お金って、どうやって手に入れるものだと思いますか?

山本綺羅星

うーん……働いたらもらえるもの?
時給とか、報酬とか、対価みたいな……?

アカガネ所長

じゃあ、なぜもらえると思いますか?
“働いた”って、どういうことでしょう?

山本綺羅星

誰かの役に立ったから……かな?
お客さんがサービスを受けて、その代わりにお金をくれる……ってこと?

アカガネ所長

そう、それが“商売”です。
お金ってのは、誰かに喜ばれて初めて手に入るものなのです。
逆に言えば――誰の心も動かせなかったら、お金は1円も動かないってことです。

お金には2種類ある

山本綺羅星

……じゃあ、わたしが売ろうとしてたのは“気持ち”?
でも、それってどういうこと?

アカガネ所長

そもそも、お金には“2種類”あります。
人は、生きるために使う「生活のお金」と、
楽しむために使う「余暇のお金」を持っています。

お金の2つの使い道

お金の種類使い道消費者の傾向
生きるためのお金食費、家賃、光熱費など節約されやすい
余暇のお金外食、遊び、趣味、推し活楽しければ惜しまれない
シマナガ

“生きるためのお金”は生活必需。削られる対象。
けれど、“余暇のお金”は“使いたいときに気持ちよく使うお金”です
ナイトビジネスが扱うのは、後者です。

山本綺羅星

えっ……そうなの?
でも、うちってただのお酒と会話じゃ……?

アカガネ所長

アナタのお店に来る人は、食事をするためだけに来ますか?
いいえ。“気持ちよくなるため”に来るのです。
つまり、“楽しむためのお金”=余暇のお金を預かってます。

余暇のお金は“大きく動く”。だからナイトビジネスは稼げる。でも

シマナガ

余暇のお金は、“気分”で動きます。

アカガネ所長

たとえば、食費や家賃のような“生活のお金”は必要最小限で済まそうとする。
でも、“楽しむためのお金”は、“気分が乗れば青天井”になります

山本綺羅星

たしかに…
一杯だけのつもりが、結局ボトル入れて帰るお客さん、けっこういたかも

アカガネ所長

そうです。それがナイトビジネスの“強さ”
一度“楽しい”が刺されば、1000円のシャンパンが1万円で売れる世界。
“高い”とは言われない。“また来るね”って笑顔で帰っていく

ナイトビジネスが動かすお金の特徴

お金の種類金額のブレ感情の影響消費者の態度
生活のお金安定している冷静・理性的節約・比較重視
余暇のお金ブレが大きい感情・気分で動く感動すれば出し惜しまない
シマナガ

ナイトビジネスの売上が“日によってまるで違う”のは、
この“気分によってお金が動く”性質に直結しています

アカガネ所長

逆に言えば――気分を外せば、一銭も入らない
“人の感情”を扱う商売ってのは、それだけ繊細で、そして破壊的でもあるんだ

ナイトビジネスが触れるのは「人の弱さ」。だからこそ注意が必要。

シマナガ

ナイトビジネスは、“余暇のお金”を動かす。
そのためには、“人間の欲求”に応えることが必要になります。

欲求とお金

欲求の種類対応するお金
生きるための欲求生活のお金睡眠、空腹、安全
満たされたい欲求余暇のお金(煩悩)自尊心、承認、安心、癒し
アカガネ所長

ナイトビジネスは、“後者”――つまり“人間の煩悩”を満たすことで成立します
その対象は、自尊心の低さ、孤独、不安など、非常にデリケートな領域です。

山本綺羅星

…それってつまり、人の“弱さ”に触れるってことだよね。

アカガネ所長

はい。
だからナイトビジネスは“癒し”にもなれば、“搾取”にもなりうる。
使い方を誤れば、それは商売ではなく――犯罪にもなることがあります。

欲求に応える仕事か、弱みに漬け込む犯罪か

欲求を悪用した実例

  • 泥酔客を狙ったぼったくり店
  • 弱者男性を囲い込んで金を搾る色恋詐欺(例:いただき女子りりちゃん)
  • 売掛地獄に突き落とすホスト営業
  • 風俗まがいのコンカフェ
  • 未成年ファンに課金を迫るメンズ地下アイドル
アカガネ所長

欲求に“応える”のが商売。
でも、“利用”して金を引き出すのは、ただの搾取です。
その違いは、お客が帰るときに“笑ってるかどうか”で決まるのです。

シマナガ

商売は“ありがとう”を集めることです。
“依存”や“誤解”を生む手法は、長くは続きません。

山本綺羅星

…わたし、昔、
気づかずに、そっち側にいたかもしれない。

お金はいったい誰のもの?

……私、昔、“売ってた”んだ。
お酒じゃない。会話でもない。
私自身を。
中身はただの金銭のやりとりだった

相手は“見返り”を求めてて、
私は“割り切り”って言い訳して、
本音のありがとうなんて1つもない。
お金は相手から”奪う”対象でしかなかったの。

お金は本来、平等な“道具”だった

稲荷さま

お金が“偉く”なってしまったのが間違いだったんじゃ

稲荷さま

おぬしは生きるために必死だった。
お金があればなんでもできると勘違いした愚者にとってよい薬になったであろう。

山本綺羅星

え、あなたは…?ナル姐さん??
日本酒バーのマスターの??

シマナガ

いいえ。
商売の神のお稲荷さまです。

稲荷さま

いつの間にか、人間は「金を払う方が偉い」と思い始めた。
売る者だけが「ありがとうございます」と頭を下げ、
買う者は黙って立ち去る。
感謝を返さぬ商いに、心など宿らぬ。
本来、売買とは“ありがとう”と“ありがとう”の交換なのじゃ。
金とは、その想いを形にする手段に過ぎん。

感謝で与えられるお金を
自分のためだけに相手から奪った。

わたしは罪を犯してしまった。そんなわたしでも許されるの…?

稲荷さま

それこそが、“金を持つ者が偉い”と勘違いした人間の、哀れな末路じゃ。
金があれば何でも手に入ると信じ、金の量で“人間ごと”買えると思い込んだ。
妾(わらわ)は、おぬしを許そう。
法など、人間が勝手に決めた“都合の取り決め”にすぎん。

山本綺羅星

神様って、勝手なのね。

稲荷さま

そうじゃ。神様とは“勝手に赦す存在”なのじゃ。
神も仏も、ありがたいもんは何でも受け入れる。
それが、この国のやり方じゃ。
願う者がいて、赦されたい者がいる――
わらわは、どちらの声にも応えてきた。
それが“すすきのの守り神”たる役目じゃ

山本綺羅星

神様はこんな汚れてしまった私の願いも叶えてくれるの?

稲荷さま

ああ、もちろん。

もう、叶っておる。

まとめ

原則内容
欲求に“応える”ことお客の心を読み取り、満たす力
弱みに“漬け込まない”こと一時の利益より、信頼の積み重ね
お金に“支配されない”ことお金は目的ではなく、手段
アカガネ所長

……最近、人間のお客さんが増えたのは、やはりあなたの仕業でしたか
開発で住処を追われた動物たちに“商い”を教え、人間に化けてこの街で共存させる――
そんな裏方仕事が、人間にバレてしまいましたよ。

稲荷さま

ふん、それも私が叶えてやった願いじゃないか
一度くらい、こっちの頼みを聞いてもバチは当たらんじゃろう?

アカガネ所長

……私の願いは、ただ一つ。
おじいちゃんが愛したこの街・すすきのを守ることです。
かつておじいちゃんが引いていた観光馬車も――
ついに後継者が現れ、またこの街を走り出しました。

稲荷さま

昔、境内にひとりの娘が現れた。
必死に泣きながら、誰に許されるわけでもなく謝っていた。
わらわは、その心に応えた。ただそれだけのことじゃ
あの娘は、“幸せになりたい”と願った。
だから、その願いを叶えた。神とは、そういうものじゃ

稲荷さま

近ごろ、私のもとを訪れるのは、祝いごとのときばかりじゃ。
一年のはじまり、お祭り、安産、合格祈願――
皆、希望を胸に、目を輝かせて救いを求めてくる。

稲荷さま

じゃがな……本当に救いを必要としている者ほど、
返済に追われ、孤独に沈み、
いつしか神の存在を忘れてしまう

稲荷さま

我ら神々は、願われれば応える。
助けを求められたら、神は必ず応えるのに

稲荷さま

頼むから、“最悪の願い”だけは口にしてくれるな。
消えたい、終わりにしたい……
そんな願いを、神は叶えねばならなくなってしまう。

稲荷さま

だから忘れないでほしい。
100年以上この街を見守っている神がいることを。
なにもなくてもよい。
いつでもわらわのところに来てほしい。

高く昇る太陽の青白い日差しがいつしか弱まり、沈みゆく太陽に変わり街をオレンジ色に染める。

昼の仕事と夜の仕事が入れ替わる時間。

繁華街は眠たそうに目覚め、活気づくとき、夜の街は少しずつ人が集まってくる。

そんなマジックアワーに昼の住人から夜の住人になることを決意した女性。

人々が行き交う雑踏を抜け、今日もお店の扉を開くのであった。

おしまい

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次