
事業計画は完成。融資も通った。
内装工事ももうすぐ終わって、お店もカタチになってきた。
SNSでの宣伝もいい感じ。ドリンクメニューも完成。
あとは……開店を待つだけ、なんだけど……
……やっぱり、怖いの。
わたし、失敗したくない。絶対に潰れない方法って、ないの?



誰だって怖いのは一緒です。
開業ってのは、“希望と不安の真ん中”に立つことですから
これまで我々が見てきた、“潰れる店と、続く店の違い”
今日はそれを全部お伝えしましょう。
- ナイトビジネスは“儲かる”けど、“崩れやすい”構造である理由
- ナイトビジネスが本当に売っているもの
- “稼ぐ”だけでは続かない――潰れないための「お金との向き合い方」



絶対に潰れない方法があります。
それは“お金を失くさないこと”です。
売上じゃありません。利益でもありません。
手元にあるお金がゼロになった瞬間、店は終わりです。
なぜ“お金が消える”のか?――タイミングのズレにご用心





お店が潰れる一番の理由は、“お金が足りなくなる”ことです。
もっと言えば――“お金が入るタイミング”と“出ていくタイミング”がズレることが原因です



え?でもちゃんと売上があるなら、別に困らないんじゃないの?



そこが落とし穴です。たとえば――
今月の売上があっても、支払いは先月分の仕入れや人件費だったりする。
逆に、税金や借金の返済は前期の“調子が良かった頃の数字”で請求される場合もあります。
たとえば、こんなズレ
タイミング | お金が動くこと | よくある“ズレ”の例 |
---|---|---|
今 | お客から現金をもらう(売上) | → カード決済なら入金は数週間後 |
月末 | 家賃や人件費を払う | → 今月の売上では足りないことも |
翌月 | キャストへの歩合支払い | → 今のうちに現金を確保しておかないとアウト |
翌年 | 税金(法人税・消費税)を払う | → 過去の好調期の分を請求される |
いつか突然 | 設備トラブル、キャスト退職 | → 急な出費に対応できないと資金ショート |



数字上は黒字でも、手元の現金が尽きたら店は止まります。
これが、よくある“黒字倒産”です



こわ……。つまり、“今あるお金”だけを信じてると危ないってことね



そうです。
だから大事なのは、売上でも利益でもなく、“現金の流れ”=キャッシュフローを読むこと”が重要になります。
ナイトビジネス特有の“ズレ”とその危険性



でも、最初にナイトビジネスは利益率が高いから儲かりやすいって言ってたじゃない。
売上予測でもドリンクがメインだから、食材費はそんなにかからないし。客単価も高いはずよ。



そこが“最初のワナ”です
ナイトビジネスは確かに、売れたときの利益は大きい。
でもそのぶん、調子が良いときと悪いときの差がとても激しいんです。
ナイトビジネスはこんな特徴があります
ナイトビジネスの収益構造



ナイトビジネスも法律上では同じ飲食店営業許可の中括りですが一般的な飲食店とは大きく異なります。
一般飲食店 | ナイトビジネス |
---|---|
商品は「食事」「ドリンク」 | 商品は「キャスト」「会話」「空間」 |
客単価は1,000~3,000円程度 | 客単価は5,000~20,000円以上も |
売上=席数×回転率×客単価 | 売上=キャスト×指名数×客単価 |
スタッフの入替があっても比較的安定 | 主力キャストが辞めると売上が激減 |
- 天気が悪いとお客が減る
- キャストが休むと売上が落ちる
- 月末イベントで爆発的に売れても、平日はガラガラ
- キャストが突然辞めたら売上が激減する
- ナイトビジネスでは、商品は「酒」ではなく「キャスト」や「空間の雰囲気」そのもの
- キャストが抜けたら売上も一緒に抜ける
- 雰囲気を守るために照明・内装・制服・音響などの設備維持費がかかる



つまり、ナイトビジネスは“利益率が高い”けれど、中身が“人間依存”すぎて安定しないのです
売上が良かった月=安全ではありません。
売れたあとに支払いだけが残る――それがこの業態の怖さです。



利益が出たときに、調子に乗って内装を豪華にしたり、
キャストを増やしたら……後で払えなくなるかも



はい。
ナイトビジネスは、絶好調のときほど、来月を警戒するべきです。
一日に何百万というお金が入ってくることもあります。
大金を見たとき、人間は気が大きくなってお金に対する警戒心がどんどん薄れていきます。
思いがけない出費が“すべてを崩す”





利益が出てたのに、手元にお金がない……?
そんなこと、ほんとにあるの……?



むしろ、ナイトビジネスではよくある話です。
順調だった売上が、ほんのひとつの出費で全部吹き飛ぶこともあるのです。
- キャストの急な退職 → 売上ダウン&求人広告費が発生
- トラブル客の対応 → 警備・弁護士・示談金など臨時出費
- 照明・音響・空調など店舗設備の故障 → 数十万円の修理費
- 店舗の更新料・消防設備点検・消耗品の大量発注
そしてお金が足りなくなったら…



今月はちょっとだけ資金が足りない。
来月イベントもあるし、すぐ返せばいいか……
そんな気持ちで、
安易に手を出してしまうのが“消費者金融”の借金です。
消費者金融という“甘い罠”



消費者金融?
そんなところからお金を借りる理由、ないでしょ
テレビでもCMやってるし、“高い金利で首が回らなくなる”って、素人でも知ってるわよ



それでも、借りるんです。現場では。



レジの中が足りなかった、スタッフの給料が迫っていた、設備修理の見積もりが思ったより高かった。
来月の週末イベントで取り返せばいい。
その一瞬の判断で、借金の時計が動き出します。
比較 | 消費者金融(高利貸し) | 銀行・信用金庫 |
---|---|---|
審査 | なし・甘い | 厳しい・時間がかかる |
必要書類 | ほぼ不要 | 事業計画・資産証明など |
入金までの時間 | 即日 | 1週間〜1ヶ月程度 |
金利 | 高い(年利15〜20%超も) | 低め(年利2〜5%) |
返済方式 | 一括 or 毎月均等 | 基本は毎月返済 |



電話一本・即日入金――
一時的な借金だし助かるように見えてきます。
でも、その“助け舟”が、店を沈める重りになることもあります。
- イベントが雨で客足ゼロ
- 指名キャストが突然辞めた
- 税金の通知が思ったより早く来た
- 借金の返済が今月分”じゃなく“前月分+延滞利息”になっていた



借りたお金は、翌月にはもう「返すだけのカネ」に変わっています。
そして「今月」の出費はまた新たに現れる。
地獄のループ:「借りて返す」だけの商売



気づけば、“営業”ではない。 “返済のための作業”をしてるだけ”のループに陥ります。



数字は回ってる。帳簿も黒字だ。
でも、手元にお金が残っていない
それを“経営破綻”と言います。
じゃあ、どうすればよかったの?――“見える化”がすべて



……売上があるのに、潰れるって……やっぱり怖い
わたし、絶対そうなりたくない。
じゃあ、どうすればよかったの?



答えは簡単です。
“今のお金”と“これから出ていくお金”を、ちゃんと見えるようにしておくこと
「つまり――キャッシュフローを見える化する。
それが経営の基本です。
キャッシュフローってなに?



キャッシュフローとは、「お金の流れ」のことです。
- いつ、いくらお金が入ってくるのか?
- いつ、いくらお金が出ていくのか?
- 今月の残高で、来月の支払いはまかなえるか?



それを“毎日”把握しておくだけで、資金ショートの大半は防げます。
特別なスキルや資格はいらない



キャッシュフロー管理って言うと難しく聞こえるけど、
要するに“お小遣い帳”です。
毎日、財布にいくら入ってて、今週何を払う予定か。
それを表にするだけです。
超シンプル資金繰り表(例)
日付 | 入ってくるお金(売上など) | 出ていくお金(人件費・家賃など) | 手元に残るお金 |
---|---|---|---|
4/1 | 50,000円(現金売上) | 20,000円(仕入れ) | 30,000円 |
4/2 | 70,000円(カード売上) | なし | 100,000円 |
… | … | … | … |
お金を守る“最強のスキル”――それが複式簿記





ここまで来たら、もう一歩ステップアップしましょう。
“複式簿記”が使えるようになると、経営者としての視界が一気に広がります



ふく……しき……?
なんか、経理の人とか税理士が使うイメージあるんだけど……



それは“正しいけど、もったいない誤解”です。
複式簿記は、“お金の地図”みたいなものです。
“どこから入って、どこに出て、どこに溜まってるか”が全部わかるようになります。
- お金の出入りを「なんとなく」じゃなく、仕組みとして理解できる
- 税理士や銀行に「ちゃんとしてる経営者」として信用される
- 決算書を自分で読める・作れる → 融資・補助金にも有利
- 使っていいお金と、使っちゃダメなお金の区別がつく



現金の残高を見るだけでは、“今あるお金”しかわかりません。
でも、複式簿記を使えば、“本来使えるお金”がどれかもわかるのです。
それはまるで、夜の街に灯りがともるようなものです。



……なんか、かっこいいじゃん。
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ナイトビジネスが取り扱う“商品=人の欲求と感情”



次は、ナイトビジネスが本当に“売っているもの”について考えてみましょう。
お金って、どうやって手に入れるものだと思いますか?



うーん……働いたらもらえるもの?
時給とか、報酬とか、対価みたいな……?



じゃあ、なぜもらえると思いますか?
“働いた”って、どういうことでしょう?



誰かの役に立ったから……かな?
お客さんがサービスを受けて、その代わりにお金をくれる……ってこと?



そう、それが“商売”です。
お金ってのは、誰かに喜ばれて初めて手に入るものなのです。
逆に言えば――誰の心も動かせなかったら、お金は1円も動かないってことです。
お金には2種類ある



……じゃあ、わたしが売ろうとしてたのは“気持ち”?
でも、それってどういうこと?



そもそも、お金には“2種類”あります。
人は、生きるために使う「生活のお金」と、
楽しむために使う「余暇のお金」を持っています。
お金の2つの使い道
お金の種類 | 使い道 | 消費者の傾向 |
---|---|---|
生きるためのお金 | 食費、家賃、光熱費など | 節約されやすい |
余暇のお金 | 外食、遊び、趣味、推し活 | 楽しければ惜しまれない |



“生きるためのお金”は生活必需。削られる対象。
けれど、“余暇のお金”は“使いたいときに気持ちよく使うお金”です
ナイトビジネスが扱うのは、後者です。



えっ……そうなの?
でも、うちってただのお酒と会話じゃ……?



アナタのお店に来る人は、食事をするためだけに来ますか?
いいえ。“気持ちよくなるため”に来るのです。
つまり、“楽しむためのお金”=余暇のお金を預かってます。
余暇のお金は“大きく動く”。だからナイトビジネスは稼げる。でも



余暇のお金は、“気分”で動きます。



たとえば、食費や家賃のような“生活のお金”は必要最小限で済まそうとする。
でも、“楽しむためのお金”は、“気分が乗れば青天井”になります



たしかに…
一杯だけのつもりが、結局ボトル入れて帰るお客さん、けっこういたかも



そうです。それがナイトビジネスの“強さ”。
一度“楽しい”が刺されば、1000円のシャンパンが1万円で売れる世界。
“高い”とは言われない。“また来るね”って笑顔で帰っていく
ナイトビジネスが動かすお金の特徴
お金の種類 | 金額のブレ | 感情の影響 | 消費者の態度 |
---|---|---|---|
生活のお金 | 安定している | 冷静・理性的 | 節約・比較重視 |
余暇のお金 | ブレが大きい | 感情・気分で動く | 感動すれば出し惜しまない |



ナイトビジネスの売上が“日によってまるで違う”のは、
この“気分によってお金が動く”性質に直結しています



逆に言えば――気分を外せば、一銭も入らない
“人の感情”を扱う商売ってのは、それだけ繊細で、そして破壊的でもあるんだ
ナイトビジネスが触れるのは「人の弱さ」。だからこそ注意が必要。



ナイトビジネスは、“余暇のお金”を動かす。
そのためには、“人間の欲求”に応えることが必要になります。
欲求とお金
欲求の種類 | 対応するお金 | 例 |
---|---|---|
生きるための欲求 | 生活のお金 | 睡眠、空腹、安全 |
満たされたい欲求 | 余暇のお金(煩悩) | 自尊心、承認、安心、癒し |



ナイトビジネスは、“後者”――つまり“人間の煩悩”を満たすことで成立します
その対象は、自尊心の低さ、孤独、不安など、非常にデリケートな領域です。



…それってつまり、人の“弱さ”に触れるってことだよね。



はい。
だからナイトビジネスは“癒し”にもなれば、“搾取”にもなりうる。
使い方を誤れば、それは商売ではなく――犯罪にもなることがあります。
欲求に応える仕事か、弱みに漬け込む犯罪か
欲求を悪用した実例
- 泥酔客を狙ったぼったくり店
- 弱者男性を囲い込んで金を搾る色恋詐欺(例:いただき女子りりちゃん)
- 売掛地獄に突き落とすホスト営業
- 風俗まがいのコンカフェ
- 未成年ファンに課金を迫るメンズ地下アイドル



欲求に“応える”のが商売。
でも、“利用”して金を引き出すのは、ただの搾取です。
その違いは、お客が帰るときに“笑ってるかどうか”で決まるのです。



商売は“ありがとう”を集めることです。
“依存”や“誤解”を生む手法は、長くは続きません。



…わたし、昔、
気づかずに、そっち側にいたかもしれない。
お金はいったい誰のもの?


……私、昔、“売ってた”んだ。
お酒じゃない。会話でもない。
私自身を。
中身はただの金銭のやりとりだった
相手は“見返り”を求めてて、
私は“割り切り”って言い訳して、
本音のありがとうなんて1つもない。
お金は相手から”奪う”対象でしかなかったの。


お金は本来、平等な“道具”だった



お金が“偉く”なってしまったのが間違いだったんじゃ





おぬしは生きるために必死だった。
お金があればなんでもできると勘違いした愚者にとってよい薬になったであろう。



え、あなたは…?ナル姐さん??
日本酒バーのマスターの??





いいえ。
商売の神のお稲荷さまです。



いつの間にか、人間は「金を払う方が偉い」と思い始めた。
売る者だけが「ありがとうございます」と頭を下げ、
買う者は黙って立ち去る。
感謝を返さぬ商いに、心など宿らぬ。
本来、売買とは“ありがとう”と“ありがとう”の交換なのじゃ。
金とは、その想いを形にする手段に過ぎん。


感謝で与えられるお金を
自分のためだけに相手から奪った。


わたしは罪を犯してしまった。そんなわたしでも許されるの…?



それこそが、“金を持つ者が偉い”と勘違いした人間の、哀れな末路じゃ。
金があれば何でも手に入ると信じ、金の量で“人間ごと”買えると思い込んだ。
妾(わらわ)は、おぬしを許そう。
法など、人間が勝手に決めた“都合の取り決め”にすぎん。



神様って、勝手なのね。



そうじゃ。神様とは“勝手に赦す存在”なのじゃ。
神も仏も、ありがたいもんは何でも受け入れる。
それが、この国のやり方じゃ。
願う者がいて、赦されたい者がいる――
わらわは、どちらの声にも応えてきた。
それが“すすきのの守り神”たる役目じゃ



神様はこんな汚れてしまった私の願いも叶えてくれるの?



ああ、もちろん。


もう、叶っておる。
まとめ
原則 | 内容 |
---|---|
欲求に“応える”こと | お客の心を読み取り、満たす力 |
弱みに“漬け込まない”こと | 一時の利益より、信頼の積み重ね |
お金に“支配されない”こと | お金は目的ではなく、手段 |



……最近、人間のお客さんが増えたのは、やはりあなたの仕業でしたか
開発で住処を追われた動物たちに“商い”を教え、人間に化けてこの街で共存させる――
そんな裏方仕事が、人間にバレてしまいましたよ。



ふん、それも私が叶えてやった願いじゃないか
一度くらい、こっちの頼みを聞いてもバチは当たらんじゃろう?



……私の願いは、ただ一つ。
おじいちゃんが愛したこの街・すすきのを守ることです。
かつておじいちゃんが引いていた観光馬車も――
ついに後継者が現れ、またこの街を走り出しました。



昔、境内にひとりの娘が現れた。
必死に泣きながら、誰に許されるわけでもなく謝っていた。
わらわは、その心に応えた。ただそれだけのことじゃ
あの娘は、“幸せになりたい”と願った。
だから、その願いを叶えた。神とは、そういうものじゃ





近ごろ、私のもとを訪れるのは、祝いごとのときばかりじゃ。
一年のはじまり、お祭り、安産、合格祈願――
皆、希望を胸に、目を輝かせて救いを求めてくる。



じゃがな……本当に救いを必要としている者ほど、
返済に追われ、孤独に沈み、
いつしか神の存在を忘れてしまう



我ら神々は、願われれば応える。
助けを求められたら、神は必ず応えるのに



頼むから、“最悪の願い”だけは口にしてくれるな。
消えたい、終わりにしたい……
そんな願いを、神は叶えねばならなくなってしまう。



だから忘れないでほしい。
100年以上この街を見守っている神がいることを。
なにもなくてもよい。
いつでもわらわのところに来てほしい。


高く昇る太陽の青白い日差しがいつしか弱まり、沈みゆく太陽に変わり街をオレンジ色に染める。
…
昼の仕事と夜の仕事が入れ替わる時間。
繁華街は眠たそうに目覚め、活気づくとき、夜の街は少しずつ人が集まってくる。
そんなマジックアワーに昼の住人から夜の住人になることを決意した女性。
人々が行き交う雑踏を抜け、今日もお店の扉を開くのであった。


おしまい