甲斐承太郎HACCPって、ボクみたいなワンオペの飲食店にも必要なの?
「認証」とか難しい言葉も出てくるし、開業前から頭がいっぱいだよ。



調べるほど大きな食品工場の話まで出てきて、迷いますよね。
まずは「自分の店で何を決め、何を記録するか」に絞って見ていきましょう。
- 個人の飲食店にも義務なのか、認証は必要なのか
- 衛生管理計画に何を書けばよいのか
- 毎日の記録・保管・保健所への対応をどう続けるのか



個人・ワンオペの飲食店も、HACCPに沿った衛生管理は義務です。認証の取得は法律上の義務ではありません。
第1章|個人店は、手引書を使って取り組める





対象なのは分かったけど、食品工場と同じ管理を一人でやるの?



小規模な飲食店には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」という方法があります。
業界団体が作り、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考に、店の管理方法を決められます。



ワンオペでも対象です。
ただし、ゼロから専門的な管理体系を設計する必要はありません。
自分の業種・業態に合う手引書を選びます。第三者認証は任意で、義務化を理由に認証を買う必要はありません。
第2章|計画するのは「店全体」と「料理ごと」の2つ



で、その計画には何を書くんだ?
白紙から始めるのはきついぞ。



日本食品衛生協会の「小規模な一般飲食店事業者向け手引書」には、様式と記入例があります。
決めるのは、店全体の「一般的な衛生管理」と、調理工程に合わせた「重要管理」の2つです。
① 一般的な衛生管理|いつもの衛生管理を、決め事にする
| 項目 | 決める内容の例 |
|---|---|
| 原材料の受入れ | 納品時に包装・鮮度・温度などを確認する |
| 冷蔵・冷凍庫 | 温度計で庫内温度を確認する |
| 交差汚染・二次汚染の防止 | 生肉・生魚と調理済み食品を分けて扱う |
| 器具の洗浄・消毒・殺菌 | 包丁やまな板などを適切に洗浄・消毒する |
| トイレの洗浄・消毒 | 実施するタイミングと方法を決める |
| 健康管理・作業着など | 下痢などの体調異常、手の傷、服装を確認する |
| 衛生的な手洗い | 調理前、トイレ後、作業を変えるときなどに行う |



項目名だけを書いて終わりではありません。
「いつ」「どう確認するか」「異常があったらどうするか」まで決めます。
冷蔵庫なら、こんな形です。
- いつ:始業前に確認する
- どう確認するか:温度計で庫内温度を確認する。手引書の記入例は冷蔵10℃以下
- 異常があったら:原因を調べ、設定を調整し、故障なら修理を依頼する。食材は状態に応じて使用を中止するなど、安全を優先して判断する
※10℃以下は手引書の記入例です。食品ごとの保存条件に合わせて管理し、庫内が10℃以下ならすべての食品が安全、という意味ではありません。
② 重要管理|メニューを調理工程で分ける



料理ごとに、特に注意する工程と確認方法を決めます。
手引書では、次の3グループに分けて考えます。
| グループ・工程 | 料理の例 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 第1:加熱せず、冷たいまま提供 | 刺身 | 提供まで冷蔵状態を保ち、冷蔵庫から出したら速やかに提供 |
| 第2:加熱して、熱いまま提供 | 唐揚げ | 中心まで十分に加熱できたことを、決めた方法で確認 |
| 第3:加熱後に冷却し、冷たいまま提供/再加熱して提供 | 作り置きカレー | 速やかに冷却して保存し、再加熱時も十分に加熱 |



カレーは熱い料理なのに、第3グループなの?



料理名ではなく工程で分けます。作ってそのまま熱い状態で出すカレーは第2。一度冷やして保存し、再加熱するカレーは第3です。
第3章|忙しい日ほど「いつもの感覚」だけに頼らない





でも、毎日自分で見てるんだぞ。記録まで必要なのか?



慣れた作業ほど「今日も大丈夫」と思いがちです。
大量に仕込む日や店外で売る日は、保管場所も提供までの時間も変わります。実際の2つの事例を見てみましょう。
デザフェスマフィン|体調不良の報告と、原因の断定は分ける



2023年11月のデザインフェスタで販売された一部マフィンについて、異臭や糸引きの申し出、食後の腹痛などが報告されました。目黒区は対象商品を食べないよう呼びかけています。



参照した目黒区の公表資料は、原因の詳細を調査中としています。
この記事では、原因菌や「HACCPをしなかったから起きた」といった因果関係は断定しません。



この事例をきっかけに、自分の店でも「製造量が増えたら冷蔵できるか」「販売までの時間が延びても安全に保管できるか」を考えておきたいですね。これは事故原因の説明ではなく、店の管理を見直す視点です。
冷やし蟹ラーメン|記録未実施と食中毒の原因を混同しない



2026年8月の麻布十番納涼まつりでは、店内で調理し、会場で販売した冷やし蟹ラーメンによる食中毒が発生しました。みなと保健所はサルモネラ属菌による食中毒と断定し、港区は7日間の営業停止処分を行いました。



また、9月11日の取材報道では、保健所長が通常営業時から衛生管理の記録を行っていなかったと説明しています。店側も、対応事項が増えて記録の優先順位が下がり、目視確認だけになっていたと話しています。



忙しくて記録が後回し……。それ、ボクにも起こりそうだな。



ただし、記録未実施が食中毒を引き起こしたと断定はできません。
行政が確認した原因食品・病因物質と、取材で語られた管理状況は分けて扱います。
第4章|記録・振り返り・保管を営業に組み込む





仕込みも接客も一人なのに、毎日長い日報を書くのは無理だ。
保健所に送る書類まで増えるの?



長い文章を書く必要はありません。
手引書の記録様式を使い、実際に確認した結果と、問題があったときの対応を残します。
営業の流れに組み込むと続けやすいですよ。
| 場面 | やること |
|---|---|
| 毎日の営業 | 計画に沿って確認・実施し、結果を記録する |
| 異常があったとき | 何が起き、どう対応したかも記録する |
| 1か月ごとなど | 同じ異常が続いていないか振り返り、必要なら計画を直す |
| 保管・保健所の確認 | 手引書では1年間程度の保管が目安。計画と記録を、立入検査などで提示できる状態にする |



たとえば「納品された食材の包装が破れていたので返品した」。
この一言があれば、異常と対応が分かります。
異常のなかった日も結果を残し、あとから推測で埋めないようにします。



1年間程度は、この手引書の保管目安です。
すべての飲食店に法律で一律1年と定められている、という意味ではありません。
紙でもスマホでも、続けられる方法を選ぶ



紙が続けにくければ、厚生労働省の無料「HACCP衛生管理記録アプリ」も使えます。小規模な一般飲食店向け手引書に対応し、計画の作成や日々の記録、振り返りをスマホやタブレットで行えます。
毎月提出する書類ではない



通常、HACCPの計画や記録を毎月保健所へ送る手続きはありません。店で使い、保管し、求められたら提示します。食中毒が疑われる場合などの保健所への報告は、別の話です。



札幌市は「毎月提出しないと営業停止になる」と提出代行料を求める勧誘や、保健所の委託を装った勧誘について注意喚起しています。そうした説明を受けたら、支払う前に管轄の保健所へ確認しましょう。
まとめ|店の衛生ルールを決め、毎日使う



序章の答えに戻ると、個人店も対象ですが、認証の取得は義務ではありません。やることは、自分の店の衛生ルールを決めて、営業の中で使い続けることです。



・対象・認証:ワンオペも対象。
・自分の業態に合う手引書から始める
・計画:店全体の一般的な衛生管理と、調理工程ごとの重要管理を決める
・事故の教訓:いつもと条件が変わる日にも、管理と記録を後回しにしない
・運用:実施結果と異常時の対応を残し、振り返る。記録は保管し、必要時に提示する



なるほど。「気をつける」を店の決め事にして、毎日続けるってことか。まずは手引書の様式を開いて、うちの冷蔵庫をいつ確認するか、1項目から書いてみるよ。





